東京地方裁判所 昭和26年(ワ)5208号 判決
原告 太田徳九郎
被告 棟田竹次郎
一、主 文
被告は原告に対し、東京都江東区深川平野町四丁目十番地六にある宅地百二十一坪六勺について、昭和二十二年十月一日附売買を原因とする所有権移転登記手続をなすべし。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、請求の原因として、「原告は被告との間に、昭和二十二年十月一日に、原告所有の主文第一項の宅地について、代金は金四万二千三百七十一円とし同年十二月末日限り支払うこと、契約締結日以後の本件土地に対する公租並びに本件所有権移転登記手続に要する費用は被告の負担とし、売買代金支払完了と同時に登記手続をすることとする売買契約をし被告は昭和二十五年三月十八日売買代金の支払を完了した。しかるに被告は原告から本件所有権移転登記手続に要する一切の書類の交付を受けながら、未だに本件所有権移転登記手続をしないので、本件土地に対する固定資産税は依然として原告に賦課されている。よつて、原告はこの不利益を排除するため、被告に対し、本件土地につき売買による所有権移転登記手続を求める。」と述べた。
被告は適式の呼出を受けながら昭和二十六年十月九日午前十時の本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面をも提出しない。
三、理 由
不動産登記は物権変動の公示方法であるから、登記と実体上の権利変動少くとも現在の権利関係とを合致させることは登記の理想である。又登記には公信力はないが一応登記に表示された権利関係を真実なものと推測させる効力があるから、実体上の権利関係に符合しない登記があるときは、権利変動の当事者は不利益を蒙るものといわなければならない。されば真実の権利関係に符合しない登記があるときは、これを是正する必要があることは勿論であつて、不動産登記法はこの是正の方法として二、三の規定を設け、その第二十六条、第二十七条においては、登記は原則として登記権利者及び登記義務者が協同して申請すべきであり、従つて登記手続に応じない登記義務者に対しては、登記権利者は、登記手続に協力せよと請求することができる旨(即ち登記権利者は登記義務者に対し登記請求権をもつ旨)規定している。そしてここに所謂登記権利者とは当該登記をすることによつて直接利益を受ける者を、又登記義務者とは当該登記をすることによつて直接不利益を受ける者を言うものと解すべきことには異論がなく、通常登記をすることによつて直接利益を受ける者とは当該登記の記載上権利を取得すべき者を、又登記することによつて直接不利益を受ける者とは当該登記の記載上権利を失うべき者をさし、なお登記請求権の法律的性質は物上請求権に外ならないと説明されているが、登記をすることによつて直接利益を受ける者は必ずしも右にあげた者に限るものではない。そもそも権利を有する者は、これが為めに公租公課その他の負担を課せられるのが常であるのみならず、権利があることによつてその生活関係に諸種の紛淆を蒙ることがあり、即ち反面において一種の不利益を受けることを免れないのであるから、権利がないにも拘わらず権利ありとして登記されている者は、その登記を是正することによつて直接利益を受けるものということができ、従つて通説にいう前示の者に限らず、当該登記をすることによつて登記の記載上権利を失うに至る者もまた登記権利者に当ると解すべきである(この場合における登記義務者は通常権利変動の他の当事者である。)即ち真実の権利関係に合致しない登記があるときは、その権利変動の当事者は相互に登記権利者として他の当事者に対し登記請求権を有すると共に、又登記義務者として他の当事者に対し登記協力義務を負うもの(即ち登記権利者及び登記義務者としての地位を兼有する。)であり、不動産登記法第二十六条、第二十七条に所謂登記権利者、登記義務者もまたこの意味で使つているのであつて、従つてまた所謂登記請求権もその本質は物上請求権には属しないと解するのが相当である。以上は当裁判官もその構成員であつた東京民事地方裁判所第七部がさきに判例としたところである(同裁判所昭和十三年(ワ)第五一四号債権及び質権設定契約不存在確認等請求訴訟事件、昭和十四年五月二十二日言渡判決)。
本件において、原告の主張する事実は、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。この事実によると、右の説示に照し、原告は被告に対し、本件土地について昭和二十二年十月一日附売買による所有権移転登記請求権を有するものといわなければならない。よつて原告の請求を認容し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 新村義広)